「うちわ会食」、覚盛上人のようにはいかなかった兵庫県知事の発案

 奈良・唐招提寺では来る5月15日に行われる「うちわまき」に使う「うちわ」づくりに忙しい。

 

 鎌倉時代の僧、覚盛上人が修行で蚊にさされた弟子がその蚊をたたきつぶそうとした際に「自分の血を蚊に与えるのも菩薩の道である」と弟子をたしなめたという。


 「うちわまき」は上人の没後にその高徳を讃えて、蚊を払うための「うちわ」が奉納されたという伝説に基づいて行われる。

 

 蚊を叩かずに「うちわ」で追い払うということは「不殺生を守りなさい」という上人の言葉に沿った尊い行いであろう。

 

 一方、兵庫県井戸敏三知事は9日の会見で、会食の際に飛沫を防ぐために「うちわ」で口を覆うことを提案し、兵庫県内の1万6000店舗に約20本ずつ、32万枚の「うちわ」(総額約700万円)だという。

 

 このことを知った時、私は上述の唐招提寺の「うちわまき」のことを思い浮かべたのである。

 

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        「うちわ」32万本で約700万円の税金を使う!

 

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15日のTVニュースでは配布を断念した「うちわ」の発注はまだしていないというが

        (いずれも 2021年4月14日 MBSテレビ「ゴゴスマ」より)

 

 覚盛上人の弟子たちは不殺生を守るために「うちわ」で蚊を追い払ったが、井戸知事はその「うちわ」で飛沫を防ぐことができると力説した。

 

 井戸知事は「うちわ会食」は蚊を追い払うこともできるが飛沫の拡散も防ぐことができる、という新しい利用法を打ち立てかったのかも・・。

 

 しかし、ここで大きな錯覚がある。


 蚊は肉眼で見ることができるが、飛沫の多くは肉眼で見ることが難しいことである。

 しかも「うちわ会食」でどの程度飛沫と感染が防げるのか、科学的な裏付けは今のところ一切ない。

 

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          (2021年4月15日 MBSテレビ「ひるおび」より)

 

 案の定、この「うちわ会食」推奨は神戸市や県民からの反対や批判を招き、14日に井戸知事は32万本の「うちわ」の配布を止めると表明した。

 

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       配布予定の「うちわ」はこういうデザインだった

         (2021年4月15日 MBSテレビ「ひるおび」より)

 

 「うちわ会食」、あの「アベノマスク」のことを思い起こさせるような出来事ではあった。