那須湯元の雪崩事故について
その日は登山講習会に参加した同県内の高等学校の登山部員と引率教員の計62人が参加し、うち48人が雪崩に巻き込まれた。
当時は雪崩注意報が発令中で、前夜から降り続いた新雪がテントの周囲に
50cmも積もり、高校生の中には「こんな天候でも訓練をするのか?」と疑問に思った者もいたという。
数日前の現地は気温が上昇し、根雪の一部は溶けだしたところもあったという。
そして26日夜からは急激に気温が下がり、雪が降り出した。
引率した教員の中には雪山に熟知した者もいたというが、この数日間の天候を観てなぜ何の危険も予知しなかったのか不思議に思う。
「せっかくここまで来たのだから」という思いが、「危ないかもしれない」という気持ちを押さえ込んだのかもしれない。
私も少なからず山を愛する。
冬山が一番安定しているときは真冬であるという。
一番気をつけなければならないのは春先の雪山である。これは雪崩の危険が多い。
次には秋山である。これは気温の急激な低下による凍死のリスクがある。
天候が荒れているときは無理して山に登らない。登山中に怪しい天候になったら躊躇せずに引き返す。
たとえ頂上が目前であったとしても、危険が予想されるときは向きを変えて山を降りる。
そういうことが何度あったか、もう数え切れないほどになった。おかげで踏破した山は百名山どころか、いまだに3分の2ほどである。
容易に頂上に立つことのできる山であろうと、どんなに低山であろうと、鎖場をつたって登る険しい山であろうと、山頂に立った爽快感はみな同じである。
私には、登った山の数や回数、その高さなどに興味は無い。
私の山登りのモチベーションとは、その途中の登山道で自然に浸ることのできる心地よさと、頂に立ったときの無報酬の達成感がすべてである。
山は逃げない。体力さえあればいつでも挑戦できる。
高校生が感じた「こんな天候でも訓練をするのか」という素朴な疑問がなぜ生かされなかったのか。
「無理をすること」がどんなに危険なことか、その警告をこの栃木県の雪崩事故は教示しているように思えてならない。
登山講習会で雪山でのラッセル訓練中に亡くなった若い高校生たち。
これから多くの山に挑戦したかもしれない若者たちの命が失われた。
この事故で犠牲になられた方々へ謹んで哀悼の意を表したい。