総理大臣の能動的衆院解散権は憲法に明記がない

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 安倍首相は早期の衆院解散に踏み切るという意向を固めたという。

 冗談じゃない。

 朝鮮半島の情勢が緊迫していて、いつなんどき北朝鮮のミサイルが日本本土を狙ってくるかもしれないというこの時期に、衆院を解散して選挙運動をやって、あえて政治空白をつくっている場合か、と問いたい。

 安倍首相が早期の衆院解散をする気になった理由は言うまでもない、着任早々の前原民進党代表を襲ったオウンゴールと、森友・加計疑惑に対する国民の関心が朝鮮半島の緊迫に向けられ、そして9月の世論調査安倍内閣の支持率回復が見られたことにあるのだろう。

 さらに野党共闘が混迷し、自民党の受け皿となる新党などの準備が整わぬ今のうちに衆院解散総選挙を行えば自民党は勝てる、という党利党略の計算以外の何物でもない。

 それを除けば、この時期に衆院解散を行う国民的メリットは全くないのである。

 安倍首相は、北朝鮮の危機は長期化すると思われるので「衆院選を先送りしても、選挙中にミサイルが発射される可能性があるという状況は変わらない」と言うが、ならば北朝鮮のミサイルが日本本土に飛んでくる可能性は今も将来も全く同じか。そうではあるまい。目まぐるしく状況が変わり、北朝鮮の出方が読みづらい今の時期こそ政治空白は避けるべきであろう。

 なぜなら北朝鮮は、衆院解散という日本の政治空白を意図的に狙って、ミサイルを飛ばすことを考えるかもしれないからだ。

 そのとき衆院選挙に立候補した政治家の多くは選挙運動に忙しくて北朝鮮のミサイルのことなんか眼中にないだろう。

 もし選挙期間中に日本領土にミサイルが撃ち込まれたらどうする。

 北朝鮮は、グアム島にも到達できる先のミサイル発射実験をアメリカは「グアムの脅威ではない」と評した。
 北朝鮮は、日本だけを弄る程度ならば何度ミサイルを飛ばしてもアメリカは軍事行動を起こさないと思っているのかもしれない。

 そうすると今度は日本の領海にミサイルを撃ち込むかもしれない。

 そんな可能性も考えられるときにわざわざ衆院解散ですか!

 ミサイルが飛んできても、衆議院立候補者は街宣カーに乗ってマイクを手放さないで演説を続けるだろう。

 役所は役所で選挙準備で大忙しだろう。

 たとえ「Jアラート」が発信されても、どうせ今回も頭の上を飛び越していくだけ、と選挙ポスターの作成の手を緩めないだろう。

 自党に有利だからと、こんな時期に衆院解散を唐突に言い出す安倍首相には権限乱用の感じさえ受ける。


 本当に総理大臣は自分の好きな時に、任意の時期に議会を解散させることができる、いわゆる能動的な解散ができるのだろうか。

 議会の能動的解散、実はこれは憲法に明記されていないのである。

 内閣不信任を決議されて議会を解散する、つまり受動的解散権は憲法に明記されているのに、今回のように安倍首相が勝手に衆院を解散するという能動的解散権は憲法に明記されていない。

 そこで、憲法に明記されていない首相の能動的解散権を使うため、衆議院では天皇が「内閣の助言と承認」によって解散を行うという形をとっている。

 このように、かなり無理な運用によって日本の歴代の首相が今まで衆院の能動的解散を行ってきたのである。

 多くの新聞に記載されている「安倍首相が衆院解散に踏み切る」という表現は、日本憲法に明記されていない能動的解散を意味するように思えてしまう。

 議会の能動的解散権は日本が手本としてきたイギリスやドイツに今はない。

 2010年まではイギリス議会の解散は女王が首相の助言と承認によって行使してきた。

 現在のドイツやイギリスでは内閣不信任を受けて議会を解散するわけで、首相が勝手に議会を解散することはできないのである。

 その背景には、議会は審議をするために開かれる場であって、それ以外の目的で利用することを戒める意味合いがある。

 議会開催初日の冒頭解散などもってのほかというわけである。

 日本では「内閣」の全会一致を受け、天皇衆院を解散するわけであるが、それがいかにも総理大臣が任意の時期に議会を解散できるようなとらえ方をされているのは問題ではなかろうか。

 たとえ衆院が解散されようとも、北朝鮮のミサイルが飛んで来ようとも、森友問題や加計学園疑惑が国民の間から消え去ることはあるまい。

 なぜなら

 安倍首相がテレビ画面に現れるたびに

 菅官房長官が記者会見するたびに

 そのほか関係したであろう人物の顔を見るたびに

まだ取り払われずに残っている森友学園の校舎や、今治市に建築中の加計学園獣医学部の建物がまるで連想ゲームのように脳裏にありありと浮かぶからである。

 こんなことを考えると、安倍首相が早期解散を打ち出したのは、国会の場で森友学園加計学園疑惑で再び追及されるのを避けたいというのが本音であろう。

 安倍首相にとって、森友学園加計学園の真相を国会で暴かれるほうが、北朝鮮のミサイルよりもっと怖いものなのだろう。