新型コロナウイルス感染拡大は日本政府や厚労省の危機管理能力の欠如が原因
最初に少しばかり自身の経験したことを書く。
これは40年以上も前に病原菌に対する当時の経験を記したものである。
当時、私は某外資系製薬会社の研究所で新薬の毒性を調べる仕事に携わっていて、
ラットという実験動物を扱っていた。
ラットはネズミの一種で、ラットに対してマウスと呼ばれる別のネズミもいる。
マウスは体長が5~10㎝で可愛いが、ラットは18~28㎝とマウスの3倍以上ある。
マウスは主として疫学的検査に、ラットは薬物の毒性検査や外科的実験に使われる。
体の大きなラットを使うのは後で述べるが血液や臓器が扱いやすいからである。
そのラットに新薬を一定期間投与し(急性、亜急性、慢性の毒性試験という)、新薬に毒性があるのかどうか、あるとすればどの程度(LD50という)で、どういう部位にどのような変化が起きるのかを、そのラットの運動能力や血液成分を調べたうえで生検をし、そして最後には解剖して臓器の変化を調べることが私の仕事であった。
実験動物のラットは専門業者が無菌室で育てたものを会社が定期的に買い取り、空調の整った無菌の動物舎で育てるから病気でラットが死ぬようなことはほとんどない。
無菌の動物舎ではラットを管理する専門の担当者が常駐し、常にラットの健康状態を観察し、給餌と飼育舎の清掃をやるのが主な仕事であった。そして彼らは常に頭から足の先まで白い防護服を着ていた。
この防護服を着用する目的はラットに付着しているかもしれない菌から人間の身を守るというのではなく、その逆で、人間の体のあちこちに付着している病原菌などから無菌のラットを守るためである。
もし人間の体に付いていた有害な菌によって、飼育中のラットが病気に罹ったり、死んだりしたら新薬の副作用と間違われる恐れがある。
そういうこともあって、研究所で働く者は実験動物を飼育する者に限らず、すべての者が防菌に対してはかなり厳しかった。
しかし、まれではあるがラットの糞などに含まれる有害な菌で逆に人間が感染症に罹ることもあった。
ラットには無害でも人間には有害な菌もあるためだ。
ラットを飼育する者の中に原因不明の微熱や下痢などがあると即座に担当を外し、入院させた。
なぜこのような素早い対応をするかというと、医薬品会社で働く社員が自社の敷地内で飼育している動物の菌によって感染症が集団発生したとあっては笑い話にもならないからである。
そういうこともあってラットを飼育・管理する者はもちろん、解剖のためにラットを直接手で扱ったり、臓器の生検を行う私たちはマスク、眼鏡、帽子、二重のゴム手袋そして上下繋ぎの白衣を着て完全防備で臨んだものだ。
一度使用したこれらのものは専門業者に出して消毒滅菌するか、再使用できないものは会社の敷地内にある焼却場で焼却した。
目に見えない相手だからこそ、このような対応は当然なことである。
上記で述べた「菌」とは「細菌」のことであり、今騒がれているウイルスとは異なる。
しかし、防染という点で考えればそれはどちらもほぼ同じである。むしろウイルスを相手にするならば、より一層厳格な防御態勢が求められる。
細菌は生物で細胞を持っているが、ウイルスは細胞を持たず、抗生物質や抗生剤は効かない。またウイルスは生物の細胞内に入り込んで、その生物の細胞に居続け、増殖する。そして場合によってはRNA,DNAを変えてより強力な感染力や毒性をもつウイルスに変貌することもある。
今回の新型コロナウイルスは中国武漢省のコウモリから伝染したといわれる。
野生の生き物にはどのような病原菌を持っているかわからない。
病原菌はどんな毒性を持っているか人間に事前に知らせてくれないから、人間はそれらの病原菌に感染して初めてその惨状を知ることになる。
最初は人間にまったく無害な病原菌であったとしても、時間を経て危険なものに変貌する恐れは十分ある。
病原菌やウイルスのDNAやRNAが人間にとって危険なものに変貌する時間、それは我々が考える数年だとか数十年だとかという時間ではない。数十分、数時間あるいは長くても数日で変わることもある。
初期感染、2次感染そして3次感染と次々に人間という宿主を経ているうちに、狙ったターゲット(人間の体内)でもっと生き延びられるようウイルスや病原菌はその性格(DNAやRNA)を変えるのだ。
新型コロナウイルスの感染拡大防止について日本政府や厚労省担当者の危機感のない対応やコメントを耳にすると、この人たちに本当に危機管理の資質があるのか疑問に思ってしまう。
今回の岩田教授が内部告発したダイヤモンド・プリンセス号の船内の悲惨な状況を最初は信じられなかった。
厚労省は岩田教授が、船内に「レッドゾーン(危険エリア)」と「グリーンゾーン(安全エリア)」の設定がされていないという指摘に対し、厚労省は「より危険の高い所」と「そうでない所」を分けていたと言う。
橋本厚労副大臣のツイッターに載った写真(現在は削除されている)
二手に分かれた船内のドアに手書きで「清潔ルート」「不潔ルート」と
書きなぐったような文字のビラが貼られているだけ、ドアは開けっ放し
で空気の流れは自由である。これが厚労省の言う区分!
(2020年月21日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
橋本厚労副大臣が20日に載せたツイッターによる船内の内部写真では、仕切りのない2つの通路の右側に「不潔ルート」というビラが開け放たれたドアに貼られており、もう一方の通路には「清潔ルート」というビラが貼られているだけである。
同じゾーン内では手袋をした者と、素手の者がいる
乗組員や職員に防染教育が徹底されていない証拠である
(2020年月21日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
これをもって厚労省はレッドゾーンとグリーンゾーンをしっかり分けていたというのだからあきれてものが言えない。
橋本厚労副大臣のツイッターに載せた写真は現在削除されている。
ダイヤモンド・プリンセス号から19日に引き続き、20日も新型コロナウイルス検査で「陰性」だった乗客が下船した。
これらの乗客は入国審査ののちにそれぞれ公共交通機関で目的地に向かったが、果たしてこのような対応で良かったのかどうか、私は疑問に思う。
なぜならその後、自宅に戻った乗客に厚労省から「2週間はなるべく家を出ないで公共交通機関も使わないでくれ」という要請があったという。
下船した乗客のもとに厚労省からこのような要請があった
(2020年月21日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
それならば下船した乗客を公共交通機関で帰宅させたのは一体何だったのだろうか。
自宅までは公共交通機関を利用させておいて今さらそれを利用するなとは・・・
(2020年月21日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
こういうちぐはぐな対応をして、しかもその矛盾に気づかない、あるいは矛盾を知りながら取り繕うようなコメントや発信しかしない厚労省、そして日本政府の危機管理資質を私は問いたい。