閉会した東京五輪、すぐに評価すべきでない
8日、コロナ禍の下で強行開催されていた東京五輪がようやく終わった。
開催期間中に組織委員会のコロナ対策などで若干のトラブルはあったようだが、この大会で日本が史上最多のメダルを獲得したことで最初開催に反対だった人たちも高揚してしまい、開催歓迎の気持ちに変化してしまったようだ。
もし新型コロナが収束し、世界各国がパンデミックを克服していたとしたならば、アスリートの人たちがこの日まで一生懸命腕と技を磨き、純粋な気持ちで各競技に参加して己の力量を最大限発揮することができたこの開催には文句のつけようもない。
しかし、パンデミックの下で強行開催された東京五輪が無事に閉幕したからといって無条件に賛辞を贈るわけにはいかない。
開催前、多い時は国民の約7割が東京五輪の今夏開催に反対していた。
しかし、東京五輪は強行開催された。
結果として、東京五輪は開催期間中に大きなトラブルも無く閉会式に至ったが、東京都などをはじめとした全国の都市では毎日の新型コロナの新規感染者数が過去最大を記録するなど感染爆発が起きた。
東京五輪開催と新型コロナ感染急拡大について菅首相は「これまでのところ五輪が感染拡大につながっているとの考え方はしていない」と言った。
さらに繁華街の人流についても「五輪開幕前より増えていない」とも語った。
このような首長のいる国で開催された五輪において、自国の選手が多くのメダルを獲得したことから菅首相をはじめとした開催推進派だった人たちだけでなく、当初は開催に反対だった人たちもメダルラッシュに勢いづき「東京五輪は大成功だった」「やっぱり開催して良かった」「五輪開催と新型コロナ感染拡大は関係なかった」などと口にし始めた。
政府は国民に対して不要不急の旅行や外出に自粛をさかんに呼び掛けているがあまり効果はみられないようである。
政府と国民がコロナ感染拡大に対して同質の危機感を共有しているとはとても思われない。
なぜか。
それは、東京五輪の開催によって国民の危機感は薄れ、何かわからぬ高揚感だけを高めることになったからである。それが国民の気の緩みとなり、感染拡大の一因となったのである。
コロナのことなど頭の隅に追いやられてしまった。
(2021年7月30日 MBSテレビ「Nスタ」より)
コロナ禍の地において、人流や人々の気の緩みを招く恐れのある世界的なイベントを行えば、それが感染拡大の大きな原因になり得るということは明白の理である。
昨年、新型コロナの感染拡大が鎮まっていないときに政府はわざわざ「GoToトラベル」を実施し、コロナ収束の芽を摘んでしまった。
この時も菅首相は「トラベル事業が感染拡大の原因ではない」と言い張った。
8日に行われた男子マラソンでは、応援のために多くの観客が沿道に詰めかけているのを見た。
沿道での応援自粛要請も何のそのである。
3密もなんのその、沿道には多くの観客が・・
(2021年8月8日 ABCテレビ「東京オリンピック・男子マラソン」より)
このような光景はこの期間中、どの競技においても多かれ少なかれ見られた。
一体、政府の言う3密回避の要請は何だったのか。
新型コロナウイルスは目に見えない。
そして感染してもすぐさま分かるものでもない。
新型コロナの潜伏期間は1~14日といわれ、感染した人に症状が現れるとは限らず無症状の場合もあり、この時はこの感染者が知らずに他の人に感染させる恐れがある。
8月24日に開催が予定されている東京パラリンピックには選手に多くの介護者を必要とすることから、今の状況下で開催することは無謀だと言わざるを得ない。
強行開催された東京五輪が終わっても新型コロナの感染拡大は止まるところを知らない。
最近はデルタ型という感染力の強いウイルスが出現し、感染者1人が従来型の4倍の8~9人に感染させるという。
(いずれも 2021年8月2日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
五輪開催中、選手や大会関係者の感染者数は計430人(7月1日~8月7日)だったというが、なぜか変異型(インド型やラムダ型あるいはデルタ型など)だったのかどうかは明らかにされていない。
コロナ禍のもとで強行開催された東京五輪によってこの先、日本国民が健康や医療そして金銭的な分野でどのような代償を払わされるのか。
それは早くて今年末、ややもすれば来年夏まで待たねばわかるまい。
この東京五輪強行開催の評価は、これらの期間を経てからなされるべきであろうと思うのである。