伯仲国会になってこそ、はじめて国民のための真の政策が生まれよう
31日の衆議院総選挙の投票まで1週間を切った。
数をもって傲慢な政策をゴリ押しする与党。
それに対し今一つ迫力に欠ける野党。
そしてその間で大臣席が欲しいのかふらふらする「ゆ」党。
(注:野党=や、与党=よ、「や」と「よ」の間にあるのは、や行の「やゆよ」で「ゆ」党)
アメリカやイギリスのように二大政党制であれば国会における法案などの審議も緊迫した雰囲気になって十分吟味されたものが成立しようが、今のように自民党など与党が衆議院の議席の大半を占める状態では与党のやりたい放題である。
(注:アメリカは厳密な意味で二大政党制とは言えないが、民主党と共和党で一方の政党が政権をとれば他方は野党的な行動をとるから広義の意味で二大政党制。またイギリスは第三党として自由民主党があるが政権担当能力がないから保守党と労働党の二大政党とみなす。)
国会審議では緊迫した状況でこそ、国民の意向を反映した法案や政策が生まれるものである。
そのためには、国会における与野党の議席数は折半に近いものがふさわしい。
共同通信トレンド調査によれば、今回の衆院選で与党と野党の国会での議席が伯仲する、いわゆる与野党伯仲国会になることが望ましいという意見が45%あったそうだ。
過去3回(2012、14、17年)の衆院選で多くの議席数を獲得した自民党の政権運営がどのようなものだったかを思えば、国民の多くが伯仲国会が望ましいと考えるのは当然だろう。
米紙ワシントンポストは岸田文雄氏が自民党総裁に決まった時「安倍氏のレガシーが次期首相の岸田氏にのしかかっている」という分析記事を掲載した(https://www.washingtonpost.com/world/2021/09/30/shinzo-abe-fumio-kishida/)。
さらにワシントンポスト紙は「現在の日本は一党独裁国家に危険なほど近づいている」と指摘し、「岸田政権において安倍氏の影による支配が続く限り、日本は変わらない」としている。
2012年から8年間続いた第2次安倍政権は第1次安倍政権を通算して在任日数は憲政史上最長となった。
その間に日本はどのように変わったか。
貧富の差はますます広がった。
それはコロナ禍が日本を襲ったことによってより顕著になった。
このことは今まで国民の間ではあまり話題にならなかったが、生活困窮が原因で自殺をする者が相次いだことによって顕在化した。
安倍政権下でアベノミクスなどの政策により、大企業や富裕層はその恩恵に浴したが、貧困者はコロナ禍によってさらに明日の命をもおびやかされる毎日が続いた。そして極度の生活困窮に陥って命を絶つ者が後を絶たないというような情報をよく耳にする。
日本でこのようなことが起きるとは2,30年前は考えられなかったことである。
今でも日本は世界の中でも有数の富国だと思っている人がいるようだが、現実は違う。
最近、テレビで東南アジアや南米などいわゆる先進国ではない国の様子を伝える場面で、その国の物価が意外と高く感じたことはないだろうか。
海外旅行が自由化になった1960年代中ごろから日本の農協団体などの海外旅行ブームが起き、旅行先の東南アジアなどでは物価が非常に安かったことを覚えている人もいるだろう。
その当時と比べて日本と東南アジア諸国とでは現在はそれが逆転しているのである。
最近の日本の物価は諸外国と比べて安いといわれる
。
ある情報によれば日本のビッグマックの価格はアメリカの6割程度しかないという。
そこでアメリカ人は日本の物価は安いと感じ、逆に日本人はアメリカは物価が高い国だと感じる。
これは上記の最近の東南アジアの物価が高いと感じられたことと同じである。
これらのことは一体何を意味するのか?
それは生活レベルが日本と東南アジア諸国とでは今や逆転している、あるいは逆転しつつあるということを示すのである。
端的に言えば、日本はそれらの国と比べて貧しくなってきている、ということである。
日本は貧国になりつつある
(2021年10月25日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
先ほどのビッグマックの日本での値段がアメリカの6割であるということは、日本人の賃金がアメリカ人の6割しかないことと同じである、と先の情報は述べている。
この著者はこれを「ビッグマック指数」と称していて、それによれば各国の賃金は
アメリカ 5位
韓国 19位
サウジアラビア 26位
パキスタン 29位
日本 31位
中国 33位
驚くなかれ、日本は中国よりも若干高いが韓国よりは低いのである。
最近の日本の労働者賃金が世界各国と比べて安い、ということは良く言われる。
日本の労働者の賃金は韓国よりも低い!
(2021年10月25日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
どうしてこのようなことになったのか?
アベノミクスによって一部の大企業や富裕層はその恩恵を受けただろう。
しかし多くの国民にとってアベノミクスは何らの好影響も与えなかったし、賃金の安い非正規労働者を多く生み出すことにもなった。
大企業は労働者の賃金を上げるよりもその分を内部留保の方に回した。その結果、多くの非正規労働者は安い賃金でギリギリの生活しかできなくなり、今回の新型コロナ禍によって多くの生活困窮者を生み出した。
あの内部留保金はどこへ行った
(2021年10月25日 ABCテレビ「羽鳥モーニングショー」より)
コロナ禍によって企業の経営が苦しくなり、そのしわ寄せが非正規労働者にきて賃金を減らされたり解雇させられたりしたが、それをやる前に経営者はそれまで蓄えてきた巨額の内部留保金を役立てることはできなかったのか。
今から2,30年ほど前、日本は裕福な国、平和な国と思っていたころは「生活が困窮で今日食べるものがない」というような状況は考えもしなかった。
今ではそのようなことをしばしば耳にする。
国民のすべてが納得するような完璧な政治を行うことは難しいだろう。
しかし、コロナ禍による生活困窮者の生活レベルを上げることができるような政策を積極的に実施することは、今のような状況下では施政者が積極的に行わなければならない最優先事項ではないか。
富める大企業や富裕層は放っておいていい。
健康な者にわざわざ治療を施すことはないのである。
しかし、倒産の危機におびやかされている中小企業や、日々の生活に困窮している国民にこそ国は手を差し伸べるべきである。
政府は新型コロナの感染者数が減少してきたことを踏まえて「GoToトラベル」を再開しようとしているが、その様なことに使われる税金こそ、新型コロナ禍による生活困窮者の救済に回すべきであろう。
これがパンデミックに見舞われた国の本当の政治なのではないか。
ワシントンポスト紙が言うような一党独裁国家に日本がならないためにも、今度の衆議院議員選挙の結果として、与野党が伯仲した国会を実現し、国民のためのもっと緊迫した国会審議が行なわれることを強く望むのである。