東京都議会の「あぶりだし」


 例年になく暑かった8月もこの日で終わりという31日、小池百合子都知事が、東
京・築地市場豊洲新市場への移転延期を発表した。
 
 
 小池知事は延期の理由として「安全性」「費用」「情報の公開不足」をあげた。

 先の都知事選で小池知事は東京都議会をブラックボックスと言った。
 いよいよそのブラックボックスすなわちパンドラの箱を開ける体勢に入ったようである。

 豊洲新市場への移転延期では賛否両論が沸き起こっているが、そもそもこの築地
 市場移転の目的は何だったのか。

 まさか利権を生み出す手段ではなかっただろうね。

 現在の築地市場が老朽化しているとか、非効率的だとか、はたまた都心の台所を扱う場所として衛生的に問題があるとか、いろいろ移転の理由がいわれていた。
 
 「2020年の東京五輪のために」というのは後から付け加えられた理由であろう。
 何様も五輪という錦の御旗には勝てないものだから。
 

 さて業者間では、豊洲新市場は築地市場と比べて遠くなるとか、魚を解体するのに手狭だとか、ターレットトラックを運転するのに急坂があるとか、使い勝手もいまひとつだといわれている。
 

 建物も出来上がり、最終の設備の取り付けという今の段階になって、なぜいろいろな問題が起きているのか。
 
 おそらくそれは小池知事の誕生によって、都議会を無言の力で押さえつけていた重石(おもし)が取れたからではないだろうか。

 築地市場に関係する業者たちは、今まで言えなかったことが少しは言えるようになった、その結果であろう。

 そんなことを考えると、東京都政はなんと前近代的な仕組みで動いてきたのであろうか、と驚いてしまう。

 インフラやファッションや食べ物やビルなど、すべてにおいて世界でもトップクラスと自負する東京都が、こと都政ではアジア諸国の首都の後塵を拝するような仕組みで動いてきたとは・・・。
 
 新しい移転先が豊洲に決まったのは石原東京都知事時代だったそうである。
 
 その決定にあたっては、現場で働くいろいろな意見を反映した種々の細かい検討が必要だったのを、おそらく誰かの一声で有無を言わさず、ごり押ししたのであろう。
 
 
 魚を捌く間口が狭いとか、ターレットトラックが使いにくいとかいった問題点は新しい市場を設計する段階でなぜ検討されなかったのか。

 たくさんの問題がある豊洲新市場であるが、やはり一番懸念しているのは小池知事も延期の理由として掲げた「安全性」の問題である。
 

 豊洲新市場は埋立地である。
 
 すでに知っているとおり、豊洲の敷地全体が高濃度のヒ素、水銀、六価クロム、ベンゼン、シアンなどの有害物質で汚染されていたことがわかった。
 
 都は除染対策を進めてきたが、そういうところに豊洲新市場は建設された。
 
 もし関東地方で東日本大震災クラスの地震が起きたならば豊洲埋立地は容易液状化し、地中の有害物質は地表に噴出するだろう。
 
 都民の台所である豊洲新市場は有害物質で汚染された土壌に浮かぶことになるのである。
 
 
 見た目はあまり衛生的には見えなかった築地市場というが、市場の床は海水で洗浄されている。だからハエやボウフラなどの発生はなかった。昔からの市場で働く人の知恵である。
 
 ところが豊洲新市場の床に海水は使えないという。
 
 都の担当者に聞けば床が痛むからだという。
 真水を使えばハエやボウフラにとっては天国、カビなどは適度な湿気で元気に育つことだろう。
 
 もうひとつ、複数階の豊洲新市場は2階部分から上に市場が入るという。その床の積載加重限度は700kg。

 ところが魚などを運ぶターレットトラックの全重量は700kgをゆうに超えて2トンにもなるという。
 
 近代的な(?)豊洲新市場でもし床が抜けでもしたら、それこそ東京都の恥である。
 

 こんなことは新市場を建てる前からわかっていた事である。
 

 もし「都議会を解散する」と言った都知事が誕生していなかったら、もし都議会に迎合するような人が都知事になっていたら、こういう問題はそれらが原因で大きな事故や事件が起きないかぎり、今日のようにメディアなどに大々的に取り上げられることはなっただろうと思うのである。
 
 
一度、今までの流れを逆に変えてみる。
 
すると底に沈んだ過去の悪癖が「あぶりだし」のように浮かび上がってくるのである。